CJF 第1回トライアル“メタバース模擬裁判”

CJF 第1回トライアル“メタバース模擬裁判”】

主催一般社団法人刑事司法未来(CJF)

【協賛】株式会社TKC

協力龍谷大学犯罪学研究センターCrimRC

2023年4月8日、日本で初めてメタバース空間における模擬裁判のトライアルが行われました。主催は一般社団法人刑事司法未来(CJF)、株式会社TKCの協賛と龍谷大学犯罪学研究センターの協力を得て実施されました。

このトライアルは、市民のための刑事司法の実現を目的とするプロジェクトの一環です。18歳になると、衆議院議員の選挙権をもつ成人は、裁判員として刑事裁判に関与することになります。ところが、日本で裁判所に行ったことのある人は12%もいません。初めて行った裁判所で、いきなり重大事件の判断を求められるのですから、戸惑いと混乱の中で審理に参加し、判決を下すことになります。

わたしたちは、1990年代に始まった司法改革は、法教育によって実効性のあるものになると考えます。そのためには、18歳になったときすべての市民が裁判を体験する必要があると考えました。でも、現実の裁判所へのハードルは高く、傍聴に行くには勇気が必要です。学校教育には法教育を指導できるような人材も不足しています。なによりも、学校教育の現場で、裁判を体験したことのある先生は極稀です。

そこで、模擬で裁判を体験してみてはどうかと考えたわけです。でも、リアルの模擬裁判を体験するには、時間もお金も必要です。コンビニエントで、かつ面白い法学習の場として、バーチャル空間に法廷を創り、アバターを使って模擬裁判に参加するという構想が生まれました。それが、この”メタバース模擬裁判”です。

今回、monoAI technology株式会社の若いエンジニアたちの協力を得て、初めてのトライアルに漕ぎ着けました。登壇者は、CJFスタッフの山口裕貴、龍谷大学SIRCの暮井真絵子、ジャーナリストにして大学院生の吉田緑、そしてNPO法人マザーハウスのメンバー、そしてTKCのスタッフのみなさんです。

事前登録をした45名の参加者は、11:00にメタバース法廷に集合し、基本操作のレクチャーと実習をして開廷の5分前にはそれぞれの席に着き、開廷を待ちました。

13:00裁判官の山口が入廷、書記官の別所の「起立」という声に促されて一堂は立ち、山口か法壇の中央に着くと後に従うように座りました。「被告人は前へ」という声に促されて、被告人の伏見は証言台の前に立ちました。「名前はなんといいますか」・・・。公判が始まりました。

大麻取締法違反事件の審理は35分で結審しました。10分の休廷の後、有罪か、有罪ではないかを多数決で決めました。結果は、有罪9人、有罪ではない22人。判決は無罪に決まりました。そのあと、30分程度の振り返りを行い、トライアルを終了しました。

想定外のトラブルもありました。改善すべき点はたくさんあります。ただ、第一歩がなければ、つぎも、未来もありません。現在、参加者のみなさんにはアンケートをお願いしています。収録した映像をモニタリングしていただきながら、より良い法廷にしていきたいと思っています。

みなさまの参加とご協力を期待しています。

2023年4月9日
CJF 石塚伸一

 

【配役】

(裁判官)山口裕貴(やまぐち ゆき) 愛媛県生まれ。龍谷大学大学院法務研究科法務専攻専門職学位課程修了後(法務博士)、同大学リサーチ・アシスタントに就任。2016年よりJST社会技術研究開発センター(RISTEX)「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域採択プロジェクト「多様化する嗜癖・嗜虐行動からの回復を支援するネットワーク(ATA-net)の構築」を担当。“模擬裁判”や課題共有型“えんたく”を活用した法教育スキームの普及に努めている。業績には、「大麻論争とダイバーシティ多様性)」(石塚伸一ほか編著『大麻使用は犯罪か?: 大麻政策とダイバーシティ』(現代人文社、2022年、262〜275頁所収)などがある。

(証人②)暮井真絵子(くれい まえこ)  新潟県生まれ。専修大学法学部卒業後、同大学法学研究科を経て、成城大学法学研究科博士課程後期に進み単位取得退学。龍谷大学社会的孤立回復支援研究センター(SIRC)リサーチアシスタント、同大学犯罪学研究センター(CrimRC)嘱託研究員。龍谷大学や京都女子大学にて非常勤講師をつとめる。業績に「諸外国と日本の大麻政策・薬物政策を考える」石塚伸一ほか編著『大麻使用は犯罪か?—大麻政策とダイバーシティ—』(現代人文社、2022年)244〜260頁、「刑事政策と治療的司法—再犯防止を目指した新たな手続モデル」『罪と罰』55巻2号(2018年)111〜120頁などがある。

(弁護人)吉田緑(よしだ みどり) 幼少期をニューヨークで過ごす。帰国後、慶應義塾女子高等学校、同大学環境情報学部に進学するも退学。舞台・映像俳優を経て、中央大学法学部通信教育課程を卒業。同大学大学院法学研究科博士前期課程(刑事法専攻)を修士論文「犯罪学的視座から考察する「薬物報道」の役割ー芸能人の覚醒剤報道を中心にー」で修士号を取得。現在、同研究科博士後期課程に在籍し、法学部通信教育課程インストラクターを務めている。依存症問題に取り組んでおり、ASK認定依存症予防教育アドバイザーでもある。業績に「タイの薬物政策改革―2022年5月大麻解禁前夜のタイから」(『龍谷大学 矯正・保護総合センター研究年報』第12号(2023年)5〜23頁)などがある。

(被告人、検察官、証人①)  NPO法人マザーハウス(代表・五十嵐弘志)は、2012年に設立された受刑者・元受刑者の社会復帰支援団体。2014年にNPO法人となった。スタッフには刑事施設経験者も多く、当事者視点・当事者体験に基づく活動を目指している。法人は、誰もが幸せを享受できる共生社会の実現を目指し、住居の確保、居場所づくり、心のケアと就労支援などの社会復帰支援プロジェクトを推進している。五十嵐弘志の著書には『人生を変える出会いの力―闇から光へ』ドン・ボスコ社、2016年)などがある。詳細は、同法人のホームページを参照。

https://motherhouse-jp.org

【参考】内閣府『基本的法制度に関する世論調査』(2019年実施)
https://survey.gov-online.go.jp/r01/r01-houseido/index.html

2019年11月、全国18歳以上の日本国籍を有する者3,000人(層化2段無作為抽出法)に対して実施された。裁判所の見学や裁判の傍聴について、今までに、裁判所を見学したり、裁判を傍聴したりしたことが「ある」と答えた人はわず11.9%、「ない」と答えた人が88.1%であった。

 

 

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